2010年12月8日水曜日

悪名高き皇帝たち(一)(第17巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2005年(文庫版) 本体価格:438円(文庫版)
現代の政治家は大変だ。24時間のほとんどをマスコミに監視され、さらには新聞記事やテレビの画像、ウェブで種々の行動を報道される。それがプラスになる政治家もいればそうでない政治家もいるのだろうけれども。ローマ時代の皇帝の風評はおそらく今よりもはるかに遅く、しかし着実にクチコミでローマ帝国内をかけめぐったに違いない。なかにはウソも混じっていたのではないかとは思うけれども、側近や近衛軍団の兵士の何気ない会話からさまざまな階層へ人格や行動が伝わっていく。そしてそれが歴史となって現代に至るわけだが、この「悪名高き皇帝たち 一巻」でもそうした悪名高き皇帝のうちの一人ティベリウスがとりあげられる。ただし著者はティベリウスの行動を検証していくうちに、「それほど悪い皇帝ではなく、むしろやるべきことを着実にやった皇帝ではないか」ということを論証していくのだが。クラウディウス家という名門にうまれたティベリウスだがアウグストゥスにとっては養子。つまり血縁関係は「ほとんど」ない。しかしローマ帝国はダキアを除いてほぼ最盛期の国土を配下におさめている。55歳にして帝国のトップにたったティベリウスは、かなりシブシブといった感で皇帝におさまるが…。元老院と市民への誠意に満ちた対応はかなり率直で正直だ。ティベリウスの息子ドゥルーススやゲルマニクスも反乱鎮定のために帝国内を走り回る。公衆安全、緊縮財政、ゲルマニアからの撤退、そしてライン河防衛ラインとパルティア王国を脅威とするオリエント問題の安定化、さらにはドナウ川防衛ラインの策定に取り組む。外交問題と安全保障問題についてはかなり尽力したものの、その最中にゲルマニクスとドゥルーススを失い、カプリ島に隠居するまでがこの一巻では取り上げられている。北アフリカなどでも反乱が発生したのだが、それを鎮圧することでアフリカ政策の基本も確立したのだ。ティベリウスという人は確かに「皇帝」という立場にありながら「市民の代表」「元老院に対する誠意」を貫いた政治家であったようだ。

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