2010年12月11日土曜日

悪名高き皇帝たち(四)(第20巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2005年(文庫版) 本体価格:438円(文庫版)
もっとも知名度が高いローマ皇帝というと映画化されたり、残虐エピソードが誇大に一人歩きしたりでやはりネロだろうか。ただ、外交面では、前任のクラウディウスの失策をカバーし、有能なコルブロを起用し、アルメニア王国にパルティア王国国王の弟をすえ、東の脅威とも同盟関係を結ぶ。さらにクラウディウスが行った秘書官制度も廃止。野心的な女性として描写されるアグリッピナとも良かれ悪しかれ縁を切る。経済発展にともなうローマ通貨の価値の切り下げ(切り下げた分だけマネーサプライが増加する)し、経済政策もまあまあ妥当。ただしアウグストゥスの血縁であるオクタヴィアを離縁したあたりから、ローマ市民の人気が低下していく。さらにローマが大火に襲われ、14の行政区のうち10の行政区が大損害を受ける(これもネロの仕業といううわさが広まる)。さらにさらにドムス・アウレアと称する一種の環境をめでる建築物の計画が、市民の人気をさらに下げていく。案外、それほど悪い皇帝ではなかったのだが、就任したのがいかんせん16歳という年齢で、しかもギリシア語をはじめとする知識や教養も備え付けてはいたのだが、その「資質」を活用することができずに終わった。とりあえずは「皇帝」にはなったのだが、その後の業績がともなうことなく人気だけが出て、最初のうちは業績がでたものの次第に資質が活用できないまま沈滞していったという様子。若さゆえ、という理由はあるにせよユダヤ民族には反乱の機運が高まり、ガリア地方でも反乱が発生、そしてローマ市民の食材の代わりに競技場で使う砂を運んできたあたりで市民の怒りが爆発。ネロは「国家の敵」と元老院から位置づけられるに到る…。

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