2010年12月28日火曜日

物語の命題(アスキー)

著者:大塚英志 出版社:アスキー・メディアワークス 発行年:2010年 本体価格:762円
ジェームズ・キャンベルの「神話の法則」などを読んでからこの本を読むとまた面白さが際立つ。キャンベルにも言及されているが、著者は「命題」(構造とかテーマでも代替可能か)を6つ取り出して、それにキャラクターやストーリーを肉付けして「作品」を作り出すスキルを教えてくれる。「命題」や「テーマ」がなにか高尚なもののように考えられている時代であれば「とんでもない」ということになるが、いまやポストモダンの時代であるがゆえさして抵抗もなく読み進める読者が多いのではなかろうか。で、この命題をもとにして学生が作り出した絵コンテがまた実際に面白いのだ。同じ物語を変奏している…という「命題」自体、これまでも批評の世界では「変奏」されつつあったのだが、「命題」としての役割をマンガの世界で果たしてきたのは、日本では手塚治虫。映画の世界全般では1930年代のハリウッド映画ということになるだろうか。
で、自分なりにあれこれ「変奏」された作品を思い出すと、「エーリクの命題」(物語の外部の世界から内部の世界に入り込んでくる主人公)でいうと、ゲームから映画にもなった「ひぐらしの鳴くころに」かな。都会からとある閉鎖的な田舎町にやってきた転校生が内部の秩序をあれこれ刺激するという意味では「エーリクの法則」にぴったりだろう。自分の出生を求めて旅立つという「百鬼丸の命題」だと「マトリックス」が該当するだろうし、「みつばちハッチ」もその系列。男女の進行する時間のスピードが違う場合の悲劇といえばハリウッド映画「ジャケット」、大林宣彦監督の「さびしんぼう」「転校生」。性の自己決定を扱った「フロルの命題」ならばマンガ「オルフェウスの神話」。成長と離別を扱った「アリエッティの命題」ならばマンガ「犬神」。応用が聞くうえに、「それで構図が同じであってもいい作品とそうでない作品」になぜ分類できるのだろう…とさらにあれこれ考える力ができる。構造を見抜いてから、さらにその先へと考え方が進化していくこと。これってまさしく「進歩主義的科学」にふさわしいのではなかろうか。あ、これも「唯物史観」という命題を変奏しているわけだけど。

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