2010年12月23日木曜日

キリストの勝利(下)(第40巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2010年(文庫版) 本体価格:362円(文庫版)
「暗黒の中世」とかよくいわれる。実際には庶民の生活レベルではけっこう豊穣な文化もあったようではあるが、足元にころがっているローマ時代の遺跡などはゴミ同然でキリスト教教会のいうことがすべて…というような時代がずっと長く続いていたのは一定程度正しいだろう。そしてその中世への幕開けはローマ時代のキリスト教の許可、さらには国教化に始まる。ギリシアのアリストテレス哲学とキリスト教の渾然一体化した「考え方」がヨーロッパ全体を統一化してしまい、それ以外の考え方は「異端」「異教」としてしりぞけられる。カノッサの屈辱も政治が宗教に敗北した時代の一つのエピソードだが著者はこの40巻ではその端緒を作り上げた司教アンブロシウスにほとんどをさいている。皇帝よりも教会の基礎を作り上げたこのアンブロシウスこそ影の皇帝だった…という著者の考え方がすけてみえる。多神教の土壌がある地域には「聖人」制度を設け、最終的には自分自身もその聖人になってしまうというこの司教。またユダヤ教の「割礼」ではなく「洗礼」制度を導入したキリスト教がひろまる「仕組み」。けっしてキリスト教について偏見をもっているわけでもなく、むしろその博愛精神には学ぶべきところもあると個人的には考えているが、もともと自然の多種多様なものに神秘を見出していた文化を一つの方向性にまとめあげてしまった功罪は今後も議論の種にはなるだろうと思う。実質的にローマは終焉しており、あとは中世のフィレンツェ、ローマ、ヴェネチアでのルネサンスを待たなければならないが、このシリーズ、おそらく2011年9月に発刊される「ローマ帝国の終焉」まで文庫版については完成を待たなければならない。ローマ好きを増加させること間違い無しのこのシリーズ、文庫版の完成でさらに読者が増えていくことだろう。

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