2010年12月20日月曜日

迷走する帝国(中)(第33巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2008年(文庫版) 本体価格:362円(文庫版)
単行本シリーズそのものは完結しているわけだが、この文庫版はかなり意図的に一年のうち3巻程度の分売方式となっている。最終巻の「ローマ世界の終焉」についてはおそらく2011年の9月ごろの発売となるのだろう。先を知りたければ単行本で、そこまで待つならば文庫本でという差別価格戦略はなかなか見事。これは出版物にそれなりの人気がないとなかなかできる販売政策ではない。で、やはり面白い。ナニが面白いのか…と考えると紀元前700年ごろから紀元400年ごろまでの人間と21世紀の人間とで扱っている器具は違っても思考回路はそれほど変化もしておらず、行動原理も違っていない。それがゆえに今ならばカエサルであればどういう行動をとっただろう、というような類推が可能になるからではないかと思う。自分に関係ない過去の歴史などにはそれほど興味関心は抱かないが、実際に失脚や暗殺された政治家の行く末やその理由などについては、個人レベルでも組織レベルでも応用がきくからではないか。で、この巻では紀元235年から帝位についたマクシミヌス・トラクスから始まる。羊飼いから軍団に志願し、次々とエピソードを残して人気者となり一時軍団から引退するものの、「人気」あるがゆえに皇帝の座につく。ただし、品格に欠けるとして元老院からは次第ににらまれていくのだが…。やや現場にこだわりすぎて「本部」のご意向を無視した皇帝は元老院からにらまれ、最後には部下に殺害される。さてさらに帝国内の内部抗争をへてゴルディアヌス3世の時代。ササン朝ペルシアのシャプールとの戦いを迎え、最中にやはり部下の不信任によりフィリップス・アラブスの帝位。記録抹殺刑に処された後、デキウスの帝位となる。ドナウ川防衛線の構築を優先するが、ゴート族についに帝国内に侵攻を許す。そしてゲルマン民族との戦いの最中に戦死。一人おいてヴァレリアヌスの時代となる。そしてこのヴァレリアヌス帝がササン朝ペルシアとの戦いの最中にシャプールの捕虜とされてしまう。息子ガリエヌスはこのローマ帝国の危機に父親を見捨てて崩壊の危機にたつ…。

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