2010年12月19日日曜日

終わりの始まり(下)(第31巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2007年(文庫版) 本体価格:362円
ハリウッドのSF映画などで近未来が描写されると、「マトリックス」や「スター・ウォーズ」などが顕著だが、選挙で選任されたと思しき執行委員が一種の意思決定機関となり、軍部を下部組織においている構図がでてくる。これってやはりギリシアのような直接民主主義制度ではなく、ローマの元老院制度と皇帝制度を組み合わせた共和主義的寡占独裁制度…という感じなのだろう。近未来ではなにせ時空を超えた広い領域について意思決定を下す必要性があるため、いちいち議決をとる直接民主主義では迅速な対応ができない。とはいえ民主主義の香りも残しておかないと近未来が妙に暗くなる。そこである程度合理的に機能したローマ帝国の制度を模して映画のなかに取り入れたのではなかったか。さてこの31巻では暗愚の帝王コモドゥスが暗殺された後、ビジョンなき皇帝候補が5人立候補し、軍団出身のペルティナクスがまず皇帝となる。ただし87日後に暗殺され、ティディウス・ユリアヌス、セヴェルス、アルビヌス、ニゲルが立候補を表明。軍部の司令官という性格をもつローマ皇帝なので、それぞれの軍団がそれぞれを支持。一応元老院が承認したユリアヌスが皇帝ということになるが、この4人の内乱状態となる。このなかで元老院の承認とローマ市民の支持がなければ皇帝についても短期政権になると見越していたセヴェルスが皇帝へ。軍人の給与アップで軍事力を高め、ローマ帝国の軍事政権化が進む。ただしそれは軍団の居心地を快適にし、他のシビリアンの力を弱めるという結果につながっていったが。無事治世をおえてセヴェルス政権はその死で幕を閉じ、次の皇帝継承者カラカラ帝に引き継がれていくことになる。ただし兄弟げんかのすえ次男ゲタが殺害されるという暗い始まりではあるが。古き良きローマがどんどん傾くその終わりの始まりだ。

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