2008年1月25日金曜日

会計基礎論(第3版)

執筆者;渡辺泉、小谷融ほか 出版社;森山書店 出版年度;2007年
 非常に多様というか、会計の歴史からグリーンアカウンティングまで幅広く題材を取り上げている。個人的には会計の歴史のくだりが興味深かった。ルカ・パチオリのエピソードについてはよく聞くが、考えてみれば「なぜイタリアで複式簿記だったのか」ということについては考えていなかった。しかし、現金収支の単式簿記だけではだめだった理由の一つに債権債務のやりとりという信用取引の拡大。そして13世紀のイタリアが当時北ドイツのハンザ同盟や南ドイツの商業大都市ニュルンベルグやアウグスブルグをおしのけて信用取引を拡大させた理由を①まずイタリアが東洋と西洋の接点として地中海沿岸のあの地域に位置していたこと②1096年から1270年まで十字軍の遠征があり、北イタリアのジェノバ、ミラノ、フィレンツェなどが食料や武器、資金の提供基地として機能したことなどが説明されている。もちろんそれに付随した決済機能も備えてなければいけないであろうから、信用取引の拡大や為替手形の普及により銀行を中心とした商業の繁栄を北イタリアは迎えることになる。これがそもそもルカ・パチオリが「ズンマ」を執筆する下地となる「商業実務」を構築させた…という流れだ。物々交換や現金決済では確かに複式簿記はさほど必要性がない。債権・債務という信用取引と文書記録の必要性、財産保全の必要性などがあって初めて複式簿記のうまれてくる「必要性」があったと考えられる。さらにこの本ではフィレンツェの「期間組合」という企業形態を紹介。この「期間組合」が複式簿記を生成させ、19世紀イギリスの複式簿記に成長しつながっていくという説明が非常に面白い(37ページ~38ページ)。さらにこれまで不勉強だったが日本の会計学研究に大きな影響を与えたというヘンリー・ランド・ハットフィールドの「近代会計学」という書物や「代理商」のもとでの委託販売や受託販売が中心になると「正味財産の比較による財産法的損益計算はほとんど意味がなくなる」「フロー中心の損益計算」が必要になってくるという流れもまたわかりやすい。積送品販売や受託販売はいまでも複式簿記の学習領域だが、フロー計算の源流が委託販売や受託販売にあったわけだ。(フロー計算への流れにいたる前に実地棚卸によるビランチオについても紹介されている)。さらに情報管理と会計情報の有用性などを第4章(201ページから219ページ)、管理会計や国際会計基準などもカバーしている(230ページ~244ページ)。
 その一方でFASBの「資産とは過去の取引または事象の結果としてある特定の実体により取得または支配されている発生の可能性の高い将来の経済的便益」「財務方向は報告することそれ自体が究極の目的ではなく経営ぴょび経済的意思決定を行うために有用な情報を提供することを目的としている」というステートメントが適切な位置に挿入されているのも魅力。

 もっともほめっぱなしでばかりではなく残念な面もある。169ページから170ページは旧商法にもとづく著述で「営業権」という勘定科目が残存。資産負債観の説明が174ページと14ページとで微妙に重複。192~193ページでは2007年4月10日発行であるにもかかわらず2006年3月期に導入された減損会計について「導入前の著述」になっている、などの問題点はある。ただ大学やそのほか自学自習で複式簿記を学習するのには、手ごわいがかなり面白いテキストではないかと思う。「幅」が広いだけに初学者に向くかどうかは別として読んでみて非常に知的面白さにあふれた本であったことは間違いない。

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