2012年6月30日土曜日

廃墟に乞う(文藝春秋)

著者:佐々木讓 出版社:文藝春秋 発行年:2012年(文庫本) 本体価格:619円(文庫本)
 直木賞受賞作品。とはいえ浅田次郎などもそうだったが、直木賞受賞作品よりも1~2作品ほど手前のほうが面白かったりするのは気のせいか。とある事情で北海道警を休職中の捜査1課刑事仙道。とことんまで救いのない短編が続いてラストで…という展開になる。精神を休めるための休暇だがいろいろな人から「お願い」をされるあたり、この仙道という刑事は捜査1課の刑事らしくない。「捜査の手伝い」などを「横」から合法的におこなうシチュエーションの描写がうまい。いかに警察官でもほかの署の縄張りにズカズカ踏み込んでいくわけにはいかないが、そのあたりの情報収集方法は腕利きの刑事だったのだな、と読者に自然に思わせてくれる展開。まあ推理を楽しむというよりは、いろいろあった中年刑事が魂を喪失して再び自分を取り戻していくという「復活」の物語といえようか。

2012年6月28日木曜日

保険業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(秀和システム)


著者:木本絋 有地智枝子 出版社:秀和システム 発行年:2008年 1300
 保険業法の改正というとかなり大きな出来事だったようだ。昔の代理店は媒介代理商や締約代理商に近い存在だったので特定の保険会社に有利な契約をむすびかねない土壌はあった。これが仲立人となると,法律上は1回かぎりの契約に限定されるので制度的には,特定の保険会社に肩入れすることはなくなるはず(現実はまた違うだろうが‥)。一連の不払いなどについてもきちんと著述されており,タイトルの奇抜さとは裏腹にわりと端正な造りになっている。同じ用語の解説が重複している点は読者の理解を助けるためと,あともうひとつは編集者のなんらかの事情によるものだろう。共済事業の説明がやや物足りないが,「保険」と「共済」だとやはり扱いに違いがでてくるのはやむをえないか。

水ビジネス(角川書店)


著者:吉村和就 出版社:角川書店 発行年:2009
 「007慰めの報酬」では,水資源そのものが扱われていた。宇宙戦争や世界制服などが題材として主に扱われているスパイ・アクション映画シリーズだが,水資源を取り扱う時代が来るとは思わなかった。この本では砂漠化現象や人口問題とあわせて,水資源が発端となったクエート侵攻やナイル川流域の水紛争など戦争や紛争にもつながる水資源の問題やメソポタミア文明が砂漠化で滅亡したことなどにも触れている。さらにIBMが水ビジネスに乗り出した意味など世界と国内の水ビジネス問題を取り扱っている点が興味深い。バーチャル・ウォーターという水資源の「消費の度合い」を示す指標が興味深い。

2012年6月27日水曜日

物流業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(秀和システム)


著者:橋本直行 出版社:秀和システム 発行年:2006年 本体価格:1300
 タイトルはわりと「オオギョー」ではあるが内容はオーソドックス。「はい付け」など業界特有の用語についても「地」の部分に注がつけられている。法律面での解説やコスト計算の解説が詳しく,実務家には読みやすい。ただし入門者が読むには専門用語が凝縮されているだけ難解かもしれない。環境規制に関する著述が増えているのもこの時代では当然のことか。自動車運送事業者にとっては環境規制対策をいかに低コストでクリアし,さらに顧客にもアピールできるかがポイントとなりそうな予感がする。
 巻末には資料と索引が付されており,これもこの本を読みやすくしている。ダブルトーンに文字シロヌキの表組みが見やすい。2色印刷ならではのデザインだろう。

「処方せん」的読書術(角川書店)

著者:奥野宣之 出版社:角川書店 発行年:2012年 本体価格:724円
 ほかの人の「読書論」を読むのは楽しい。いろいろな「読み方」がありうるということと、どの人であっても共通する部分というのがある。だいたい読書のあとにはメモ書きなり感想なりフォローアップをしておいたほうがいい、というのは共通原則のようだが、他人と一緒に読む読書会などについては賛否両論。この本の著者は読書の感想なり感動なりはうちにひめておいたほうがいいという立場だが、そうした考え方もまた読者一人一人の向き不向きで取り入れたりとりいれなかったりすればよい。司馬遼太郎さんが原稿の推敲にダーマトグラフを使っていたというのをこの本で知る。いろいろな色で文章の挿入や指示をおこなっていたとのこと、完成に至るまでのプロセスを知ると同時に、読書を積み重ねていく上でも読者もダーマトグラフ(あるいはそれにるいしたツール)で読書経験を改変したり応用したりすることができるのではないかと思った。「本屋さん」の空間をやすらぎや知的好奇心の場所としてとらえるという著者の主張も好ましい。

「物流のしくみ」(すばる舎)


著者:花房陵 出版社:すばる舎 発行年:2004年 本体価格:1400
 keywordで読み解くという構成も,対象によってはわかりにくくなる。一見,初心者が読むとわかりやすそうで,keywordが体系性があまりないままに著述されていると読者は思考が分断されるのではないか‥。物流センターと倉庫の違いなど機能的な差異に着目した説明はわかりやすい。ユニットロードシステムについてもイラストが多いのは好感がもてた。

よくわかる流通(日本実業出版社)


 著者:富士経済研究所 出版社:日本実業出版社 発行年:1998年 本体価格:1400
 緑と黒の2色だが,これが目にやさしい。図版が多いのはなかなかわかりやすい。ただし難しい概念の図解ではなく,わりと優しい概念の図解が目立つ。「流通」と銘打ってあるのでいわゆる取引流通以外にも物流も取り扱っている。医薬品や化粧品などの流通も扱っており,ミクロからマクロまで一応全部入っているという構成だ。
 図版はなかなかよいのだが,文章や語句の表記の統一などで不満が残らないわけではない。ただかなり組版にこっているのとイラストにもお金をかけているふしがうかがえてそれは高い評価。