2012年6月18日月曜日

マンゴーレイン(角川書店)

著者:馳星周 出版社:角川書店 発行年:2002年 本体価格:1700円
 タイ、バンコク。雨季に入る前の酷暑の夜。幼馴染の日本人からとある中国人女性をシンガポールに移送してくれと頼まれる男…。映画「トランスポーター」とか影山民生の「虎口からの脱出」、あるいは「深夜プラス1」みたいな展開だと嫌だな、と思っていたら、物語はまったく想像もしない方向へと走り出す…。英雄とは、ジョセフ・キャンベルの定義でいえば「自力で達成する服従を完成する人間」(=自己克服をする人間)ということらしい。当初は妻を日本へ売り飛ばし、日本で死なせてしまった最低の男が途中から何かに覚醒して別の人生を歩もうとしていくくだりはまさしく英雄のそれ。で、おそらくそうなるであろうと思われる「訣別」「解体」「死」という現代の神話にふさわしいラストに向かって登場人物が疾走していく。考えてみると、ラストになって「ああ、これで四方八方丸くおさまって良かった良かった」では小説にはならないし。馳星周の小説を読もうという人がそんな小市民的な粗筋をもとめているわけでもないし。で、当然のごとくギリシア悲劇のような、ある意味予定調和的なラストへと向かう。「あれ」「あれ」と誰もが具体的には知らないはずの「宝探し」が代名詞で表現されているのには苦笑。舞台がギリシアからタイへ、主人公がタイ育ちの日本人へと転換した神話の再生ストーリーだ。

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