2012年5月13日日曜日

高橋是清と井上準之助(文藝春秋)

著者:鈴木隆 出版社:文藝春秋 発行年:2012年 本体価格:830円
 金解禁を断行し、緊縮財政を推し進めた井上準之助とその後赤字国債を発行し金輸出再禁止と財政拡大政策を推し進めた高橋是清。いずれもテロで命を落としているが、その人生を対比させ現在のインフレ政策とデフレ政策についても言及した本。金本位制という今では実施されていない通貨管理制度のためちょっと読みにくい部分はあるが、金輸出解禁政策は金本制度に復帰してデフレ政策を推し進め、物価の下落を利用した貿易収支の拡大をめざした政策、金輸出再禁止は金本制度から離脱し通貨供給量を拡大し財政支出も拡大していこうという政策と位置づけてよいだろう。ほとんど学歴をもたない高橋是清と一高から東大、日本銀行というエリートコースを歩んだ2人の政治家だが、存外協力すべきところは協力しつつ、大蔵大臣や日本銀行総裁をつとめたいた様子。やや井上準之助のデフレ緊縮がやりすぎといったところと高橋是清はインフレ政策ではあっても陸軍の拡大戦略には批判的だったところがいずれも軍部の怒りを招いたようだ。昭和の初期から2.26事件とその後数年の歴史をかいまみるのにはちょうどいい新書で、より詳しい情報は巻末の参考文献を見れるようになっている。日本の財政赤字が1000兆円にもうすぐ達しようとしているが、このまま財政赤字が膨らんでいくとインフレーションの下地ができあがり、一度ハイパーインフレになったらとんでもないことにもなりかねない状況。未だに公共支出論者やマネーストックの緩和論が根強いが、歴史はインフレの怖さも教えてくれている。
 ケインズの乗数効果という概念がおそらくこれまでの財政にはあったのだと思う。が、昨今は財政支出をしても必ずしもその乗数倍の景気拡大には結びついていないという実証研究もある。付加価値のある公共支出ならば問題はないが利用者がほとんどいない第三セクターやらハコモノやらでは、最低限の社会資本インフラにもならないというのが今の実情。経済学のテキストでは想定していない時代にはいったことを痛感する。

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