2012年5月28日月曜日

フランス反骨変人列伝(集英社)

著者:安達正勝 出版社:集英社 発行年:2006年 本体価格:700円
 絶対王政の時代にルイ14世にさからったモンテスパン候爵、フランス革命後に将軍となり、ナポレオンに仕えたあとルイ18世に忠誠を誓い、その後再びナポレオンの指揮下にはいるネー元帥、七月革命後に重罪裁判所法廷で裁かれる犯罪者詩人ラスネール、そして死刑執行人の7代目(6代目)サンソン。この4人を特集したのがこの新書で、歴史に名を刻むのはネー元帥のみ。ただしラスネールは「天井桟敷の人々」にも登場したりする。
 客観的状況は遠くフランスのその昔だが、舞台設定を21世紀の日本に移し替えてもそれほど実は違和感はない。価値観が多様化して、しかも固定化していないのは共通しているし、そうしたなかでネー元帥のようにあっちへふらふらこっちへふらふらと意思決定を間違えてもそれは仕方がない。ミクロな戦争にたけてはいても、価値観が変動する時代に生き残るにはタレーランやフーシェといった名うての政治家でなくては無理だったのだろう。ラスネールのようなロマン主義的な犯罪者は、けっこうネットの世界には跋扈している。現実世界が息苦しいときに極端に理想主義に生きるのもまた人間のさがかもしれない。「武士道」などが21世紀になってまた再評価されているのもモンテスパン候爵の奇矯なふるまいと共通する部分はあるだろう。そして死刑執行人サンソン。この著者にはサンソンのみを取り扱った別の新書もあるが、法の定めで死刑執行をおこなう一族が逆に畏怖の対象となるという現象は興味深い。死刑に賛成する人はいて、また死刑を言い渡す司法があっても直接的になんらかの手をくだすのは「いや」という事例、けっこうあるのでは。今は刑務官がその作業をになっているが、これこそ抽選で国民がそれぞれ負担するべき行政執行ではないか…とも思う。少なくとも国会で刑法が定められて、その手続きどおりに執行されているという手続論が優先する場合には。

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