2012年5月22日火曜日

はつ恋(新潮社)

著者:ツルゲーネフ 神西清翻訳 出版社:新潮社 発行年:1952年 本体価格:320円
 初版発行から90刷というとんでもないロングセラー。調子が悪いときには古典の世界や図書館にこもるというのは一つの打開策で、21世紀の自分のことなど古典や書籍の山の中では砂粒みたいなものであることが実感できる。
 ロシア19世紀文学の古典とされているが、実際に読んだ人はおそらく少ない。粗筋自体は「え、これはつ恋なの…」というほど実際には大人の内容。ツルゲーネフが生まれたのが1818年ですでにフランス革命は終了。ただしきたるべきロシア革命の前、ということで地主階級は没落の道を歩んでいる。没落しつつある貴族階級や地主階級の退廃的な雰囲気がこの小説には漂っており、これはさしづめ21世紀でいえば、IT長者みたいなものか。「取れるだけ自分の手でつかめ。人の手にあやつられるな。」と説く父親が出てくるが、42歳で死亡するという設定で、これがこの小説の伏線になっている(21世紀の読者には途中で予測がつかないわけではないが)。自由意思という言葉がでてくるあたりが没落しつつあっても19世紀のロシアの奇妙な思想状態を示すものかもしれない。ラストは19世紀の思春期文学らしく「祈り」で終わる。ロシア革命でもギリシア正教をなくすことはできなかったが、このストーリーでは民主主義も自由意思も最終的には「祈り」で救済されている点が印象的だ。

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