2012年5月7日月曜日

大地の子 第1巻~第4巻(文藝春秋)

著者:山崎豊子 出版社:文藝春秋 発行年:1994年 本体価格:581円
 上川隆也主演のテレビ番組は一度も見ていないし、タイトルだけはなんども見ていたがズルズルと読むのを先延ばしにしていた。で、第1巻を書店で立ち読みし始めてみたらこれが案外面白い。文化大革命の「吊るし上げ」の場面から始まるのだが、屁理屈・足上げ取りと残忍な処罰はポル・ポト派も戦前の某革新政党にも共通する場面。「労働改造所」の湿った描写も今時の20代には想像がつきにくいかもしれないが、ソビエト連邦時代のソルジェニーツィンなど読んだことがある人には、すんなり入り込める世界。とかく闘争や対立を好む人の周囲には陰惨な空気が漂うが、「大地の子」の文化大革命終了まではほとんど陰気な雰囲気が全体をおおている。さらに加えて満州開拓団の家族をソビエト連邦国境付近に置き去りにし、戦後補償も不十分だった在中孤児の問題や、日中国交回復前の日本人孤児に対する差別などがからみあい、生きる苦しさが文章の間からほとばしる。
 今の平成の時代が平成大不況で希望がないとする見方もあるが、第二次世界大戦中や1955年までの戦後、さらには1970年代のオイルショックなど、これまで好景気と希望にあふれた時代はきわめてわずか。バブル景気とはいっても実際には1985年から1990年前後までが能天気な時代でそれ以降は悲惨な時代だったといえる。そのなかでいかに「希望」を持てるか、あるいは人生を投げ出すのかは、それぞれ個人の資質による。ラスト間際に「大地の子」というタイトルを主人公がつぶやくが、その瞬間こそ種々の時代の不幸のなかで「時代」の波にのまれずアイデンティティを確立した強さとしぶとさがうかがい知れる。

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