2012年5月22日火曜日

戦争の足音(集英社)

著者:佐藤賢一 出版社:集英社 発行年:2012年 本体価格:552円
 毎月1冊づつ発行されていたフランス革命シリーズもこれでしばしのお休み…。立憲君主制とブルジョワ階級の温存を考えているフイヤン派は、ルイ16世のヴァレンヌ逃亡を「誘拐」とし、偶発的に始まったシャン・ドゥ・マルスの虐殺でも国民の理解を得る説明はできなかった。ジャコバン派はロベスピエールが率いるが、国内のオーストリアやプロシアに対する戦争モードに対してロベスピエールは反戦論を唱える。
 フランス革命後のフランスは将校だった帰属階級が脱出して、さらにセ性拒否派といわれるカソリックの僧侶がフランス革命に対しては批判的なスタンスをとっていた。主戦論者は国内の鬱屈を戦争ではらして国内統一を図ろうとし、反戦論者は将校が不在のまま戦争状態になれば敗戦はまぬがれないと考えていた。歴史的にはこのあとフランスはヨーロッパ全体を敵にまわして戦争状態に入るわけだが、戦争に傾く一派と反対する一派の考え方の違いが興味深い。恐怖政治をひくロベスピエールとしても戦争論については抑えきれなかったということになるが、そうした政治的弱者だったジャコバン派がいったいいつの時点から多数派を占めるようになるのかが気になる。「理屈づくめの冷たい弁護士」というロベスピエールのイメージは、このシリーズを読むとまったく覆される。

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