2012年5月4日金曜日

税務署の復讐(文藝春秋)

著者:中村うさぎ 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:552円
 昭和前期から昭和30年代の小説家といえば、だいたい酒をのんだくれて喧嘩して借金を積み重ねて…と「火宅の人」だらけのような「偏見」をもっていたが、この本を読んで認識をあらためる。21世紀の平成の時代であっても、借金を積み重ねてむちゃくちゃやる文士がいて、それはやはりこの中村うさぎさんが筆頭。あちこちの出版社から「前借り」して生計をたててる旨は本文のなかにも著述されているが、それってやはり中村うさぎさんの「才能」が担保になっているものと思われる。だって差別をめぐる論考などは「なるほどね」とうなづくしかないほど明晰だ。そして圧巻はやはり渋谷税務署による自宅の差し押さえの様子。「差し押さえ」は債務名義を明らかにする法的手続きで国税徴収法にもとづいておこなわれ、税金がらみは民間の債権に優先する。が、実際にどのように税務署の差し押さえをするのかは、この本を読んで初めて知った。
 遠藤周作の「沈黙」を読んでキリシタンの苦しさに思いをはせ、檀一雄の「火宅の人」を読んで小説家の創作の苦しさを想像…しても自分が江戸時代のキリシタンになることがあろうはずもなく、小説家になれるはずもないが、中村うさぎさんの「自宅の渋谷税務署による差し押さえ」は我が身にも将来ふりかかってこないとはかぎらない事態である。ICレコーダーで記録したという会話の再現やら差し押さえの対象となった物品やら本当にこれは貴重は記録で…。「ネトゲ廃人」と「コスプレ」「性差」にまつわる論考はさらに圧巻…。

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