2012年5月10日木曜日

蒲生邸事件(文藝春秋)

著者:宮部みゆき 出版社:文藝春秋 発行年:2000年 本体価格:895円
 大学受験に失敗した主人公が、とあるきっかけで2・26事件の直前にタイムスリップした…。タイムスリップものは苦手だが、この本では平成の時代から2・26事件への「移動」ということで、いきなり緊迫した場面にひきこまれる。すでに昭和恐慌や張作霖爆死事件などは発生しており、陸軍が皇道派と統制派に分かれ、陸軍の予算削減に不満が高まっていた時期・2.26事件をきっかけにして、日本は戦争色を一気に強める。この時代がある種の人によっては「生きやすい」というのは不思議な気もするが、ちゃんとそれには裏付けもあった。
 一応「事件」は起きてその謎解きもされるのだが、それが物語の重要な要素ではないところが面白い。雪はふっているが、それにはあまり関係がない「事件」ではあるし。この昭和の前期は平成の今でも大きな問題点を提起している。デフレがいいのか積極財政がいいのか。軍事費はおさえたほうがいいのか、あるいは仮想敵国がある場合には軍事費は増やしたほうがいいのか。「時はすぎ去る時、その痕跡を残す」(タルコフスキー)という言葉が634ページ小扉裏に印字されているが、なるほど「痕跡」は残されそれが物語になるが歴史の流れは変わらないものらしい。

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