2011年10月13日木曜日

虐殺器官(早川書房)

著者:伊藤計劃 出版社:早川書房 発行年:2010年 本体価格:720円
2010年2月に発行されたこの文庫本は、2010年12月には29刷となっている。すでにこの世にはいない作者の「悲痛さ」が伝わってくるSFの名作だ。救いのない戦闘場面から主人公の独白と苦しみが始まる。そして世界を虐殺にむかわせる「仕組み」とは何か…。謎が解き明かされていくに連れて、責任は「神」ではなく人間にあり、テクノロジーではごまかしきれない人間の「良心」と「身体的な痛み」があり、人を虐殺にむかわせるメカニズムがある…。途中、どこかで読んだ論理が展開されるのを感じ、よくよく考えてみれば昔読んだスティーブン・ピンカーの「言語を生み出す本能」(NHK出版)だった。SFの「衣」をまといつつも、そこには核爆弾で家族をなくし、世の中を恨み、そして現罪を引き受けようとしたか細い人間のドラマがある。それは経済の不振という今の世の中に構図は違っても共通するものがあるのだろう。「虐殺器官」という身もふたもないタイトルは見もふたもない生き方をせざるをえない今の人間の悲痛な叫びを訴えているようだ。

0 件のコメント: