2011年10月2日日曜日

暴力団(新潮社)

著者:溝口敦 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:700円
大物芸人のS氏が広域暴力団幹部との交際を理由に芸能界から引退した。バブル以後数年間は、企業の総務部と裏社会の「交際」も続いていたと推測されるが、その後、暴力団対策法、組織犯罪処罰法などの適用により、企業と裏社会との「交流」が「薄く」なってきつつある(完全に遮断はまだできていないと思われる)。この本では「暴力団」の定義、組織体系と金のルート(暴力団ではないがかつての暴走族の結集としての関東連合も第1章で扱われている)、第2章で「シノギ」(最近は産業廃棄物と解体作業が大きなシノギになりつつあるようだ)、第3章で「人間関係」、第4章で海外のマフィア、第5章で警察との関係を取り扱う。
おりしもあるウェブでは広域暴力団の幹部が一問一答をウェブで展開し「芸能界とのつきあいにはメリットはない」と答えている。が、この本を読んでからそのインタビューを見るときわめて政治的な受け答えがみえかくれする。一つは芸能人S氏の引退などが社会的に大きな波紋を呼んでおり、ただでさえも厳しい暴力団排除条例がさらに厳しく運用される可能性があること。そして芸能界で関係のある芸能人は今後さらに引退もしくは活動自粛においこまれる可能性が高くなっていることを懸念しているようだ。芸能人との関係でいえば金銭的なメリットは少ないかもしれないが(あまったコンサートのチケットを売りさばくのは暴力団側になる)、非金銭的なメリットはある。組の幹部が大物芸能人と並んで写真にうつるだけでも、組の統率には役にたつだろう。その意味では、S氏の引退は広域暴力団の幹部にも影響を与えるほどの激震だったのではないかと推定される。今後の動向としては著者は海外のマフィアのような組織犯罪の形態と、関東連合のような一種のセミ愚連隊のような形態に二分化していくと推定しているようだ。「構造不況業種」(202ページ)と書かれてしまうと、21世紀はこれまで想定しなかった形に犯罪が拡散していくのではないか…という不安もよぎる。

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