2011年10月22日土曜日

ためらいの倫理学(角川書店)

著者:内田樹 出版社:角川書店 発行年:2003年 本体価格:629円
評価:☆☆☆☆☆
「戦争・性・物語」という副題がつく。戦争については日本人全体にただよう「どっちつかず」の美学みたいなものがとりあげられていて、いたく共感。声高にハンセンを訴える人たちもいるが、実際には「まあ、あんまり過度にやってもまずいし、そうでなくてもまずいし…」という微妙な雰囲気が実際にはただよう。国家に対する信認はもちろんあるものの、それでは失業したりしても国家が面倒をみてくれるのかというのは非常にあやういという認識も同時にある。この「どっちつかず」を微妙に表現できる思想家というのは現時点では内田樹が最高峰ではなかろうか。「物語」についてもプロップなどの影響もとりこみつつ、「起源をいつわる物語」の可能性について著者は言及する(209ページ)。一時これも過度にやりすぎたとはいえポストモダンの影響下の試みは有史以前からの「物語のなぞり」を否定しようという動きそのものにあったと思う。これを端的に数ページで解説してしまうこの本は、非常にお買い得だ。ともすれば安易は論理や結論を純粋命題にして、しかも他人におしつけようという前近代的な思考。最近また増加しつつあるのだけれど、左であれ右であれ、男性であれ女性であれ男性でも女性でもない人であれ、他人に自分の「正義」をおしつけようとする人。かなり用心しないとそっちの狭い世界におしこめられて柔軟な考え方が奪われる。内田樹、そういうリスクを排除するのにはもってこいの防御システムである。

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