2011年10月13日木曜日

ワルツ 上巻・中巻・下巻(角川書店)

著者:花村萬月 出版社:角川書店 発行年:2011年(文庫本) 本体価格:857円(文庫本) 評価:☆☆☆☆☆
単行本で読む花村萬月と文庫本で読む花村萬月は、微妙に読後感が違うような気がする。単行本で一気に読み終わる場合には、大河小説というか一つの別世界を丸呑みしたような充足感がある。文庫本で小分けにして読む花村萬月は、お神酒を3回に分けて少しづつ飲み干すような圧迫感の山が連なっている感じだ。タイトルが「ワルツ」というこの作家にしては妙にハイセンスな感じだが、実際にこの世界にはまると、戦後の日本が目の前にたちあがる。けっして美談などではなく、非情に血なまぐさい世界で、新宿の闇市で煮込んだシチューには人の「前歯」やらコンドームやらが一緒に煮込まれている生臭い世界。そうした世界で、さらに血なまぐさい「極道」の世界が描写し、しかもその中心には、国語学者の美貌の娘が一角を占める。「欝」「二進法の犬」などの主人公がそうであったように、主人公もしくはそれに準じるものは正気の世界を失うか、命を失うのか…とはらはらして下巻まで読み進むと、予想を裏切る「残酷」な世界が…。死の間際までいって生き残った元特攻隊員「城山」、国籍が韓国で日本に対しては複雑な気持ちをもつ「林」、身寄りをすべてなくし、博徒舘岡組に身をよせる「百合子」がかもしだす「ワルツ」の世界。途切れそうで途切れない人間の「縁」が戦後の日本を舞台に醸し出す「血」の物語。昭和20年から昭和23年の世相を舞台に一気に山谷を駆け上り駆け下りた3人の生き様をみよ。

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