2011年10月16日日曜日

なぜ意志の力はあてにならないのか(NTT出版)

著者:ダニエル・アクスト 出版社:NTT出版 発行年:2011年 本体価格:2800円 評価:☆☆☆☆
自己管理が大事…というのはおそらくキリスト教、わけてもプロテスタントの影響が大きいと思う。最近発刊されるビジネス書籍の多くも「自己管理」の重要さを説き、その手段をディジタル機器などを利用して解説するという構図のものが多い。この本ではそうした「自己管理」の意識の文化をギリシア時代から解き明かしていく。自由を人類は手に入れたかわりに飽食による肥満死や拒食症などの増加を招いた。こうした自由の代償として、世界がアノミーに陥るというデュルケームの議論を引き合いにだし(109ページ)、それは結婚などの法令上の「自己管理」にも話が及んでいく。未来の価値をあまり信じられない人の割引率は高くなり(つまり1年後の100万円よりも目の前の10万円を優先するという行動)、そうでない人は節制など自分の将来割引価値を高く見積もるという傾向など、最新の議論まで展開。一種の「文化史」ということで、著者自身は自己管理がいいとも悪いとも、将来の割引率が高いほうがいいとも低いほうがいいとも断定はしていないのだが、少なくとも有史以前から人類は「自分を管理」しようとして幾分かは失敗して幾分かは成功して、その数少ない成功がそれなりの成果を招いた…というのは本全体から伝わってくる。ビジネス書籍では自己管理ありき、なのだが、自己管理ってそもそも何?という疑問に対して、斜め真向かいから答えてくれる本。

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