2011年10月23日日曜日

45歳からの会社人生に不安を感じたら読む本(日本経済新聞出版社)

著者:植田統 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2011年 本体価格:1400円
「時空を超えて…」てな話に人気が集まり、さらにファンタジー系統では10代の青少年になぜか人気があったりする。「時をかける少女」(筒井康隆)などが何度もリメイクされたり、続編があれこれできるのも、タイムトラベルものの人気のあらわれではないかと思う。「もう一つ別の人生」に魅力がある理由。それはおそらく、「あのときああしておけば」という選択肢をあらためて獲得できる手段が「タイムトラベル」ではないか…と個人的には考えている。一定程度現実にもまれると「あのとき、ああすれば」というのは絵空事であることがわかってくるが、10代や20代では「あのときああすれば」がまだ現実味をもって語れる内容だったりする。人間は失われたはずの選択肢がまた回復できたりすると、それだけで元気がでる生物らしい。
で、45歳。もうあれだな。タイムトラベルとかいう絵空事ではなく、現実性のある選択肢のなかで生きていくしかないうえに、将来の可能性もきわめて乏しい。まして2010年代はリーマン・ショックで世界的大不況。どう考えてもばら色の未来とはいいがたく、原子力エネルギーなど将来にむけても不安材料ばかり。45歳以降に不安をかんじないでいられる人間はそれほどいない。こういう本がでてくるとどうしても手にとって読んでしまう。この本の冒頭は有名大学を卒業して外資系企業につとめたものの、若いときの苦労とマネジメント能力の欠如から最終的には45歳をすぎて失業してしまった人の事例。早期退職制度の事例なども含めると45歳以降50歳までで20,000人近い人間が会社から退職していくのだという。これからの日本の経済事情をみると、事実上の早期退職と子会社への出向などがかなり多く発生すると同時に、年金給付などの時期は後ろにずらされていく時代になるのだろう。ビジネススキルより人格を磨くこと、協調性や自己改造、人間関係のメンテナンスなど非常に地道な努力が必要となるが、まあいってみれば年齢を重ねることでオプションが狭くなってきたことの裏返しでもある。コストの高い人材をわざわざ雇う企業は少なく、自分自身の商品価値をみきわめていけ…という哲学的な部分をこの本は著述しており、けっしてスキルの細かい部分やテクニカルなことを解説したわけではないが、全体をとおして流れるオプションの減少とリスクについて率直に語ってくれているあたりは「時をかける少女」の真逆の現実味あふれる著述でもある。元気がでる内容ではないが、かといって不必要に落ち込む内容でもない。45歳以降にはまだ程遠い人にもすでに達してしまっている人にもいずれ来る未来として、この内容はふまえておいてソンはない。
就職や転職が目的化してしまうと、本当の自分の目標を見失ってしまうこともある。ある種、目の前に就職戦争や転職競争などがあると、それを突破することが目的化してしまう。が、田舎か郊外で、一軒家をもち、そこでほどほどの在宅業務をこなしながら映画と読書を楽しむ…という生活がばら色としている人間には、たとえ望むような職業でなくても、そこそこ目的は達成できてしまったりする。「不安」の内容も個人差があるが、一度立ち止まって人生考えたい人にはこの冷静な著述。けっこう勉強になる。

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