2012年8月29日水曜日

プロ野球 勝ち続ける意識改革(青春出版社)

著者;辻発彦 出版社:青春出版社 発行年:2012年 本体価格:848円
 ヤクルトファンの私は、西武から辻選手が入団してきたとき「信じられん」と思った。日本シリーズで伝説に残る1991年、1992年の2年間にわたり対戦し、ヤクルトファンを最後まで苦しめたのが、辻選手。入団してからもベテラン選手に注意したり、統率したり、あるいはショートの宮本選手がお手本となるべき存在として辻選手の名前をあげるなど、目にみえる打率や打点以上に1990年代のヤクルトに大きな遺産を残した選手である。その辻氏が広岡監督、森監督、野村監督、王監督、落合監督などにつかえた経験値をさらに書籍という形で凝縮したのがこの本。タイトルは「意識改革」となっているが、これは編集サイドでつけたタイトルで、むしろフォロアーシップの在り方や「鍛錬の方法」など意識の「向上」に重点が置かれているように思う。いずれも歴史に残る名監督ばかりが例にとられているが、その共通点や相違点を選手として、あるいはコーチとして分析し、野球ファンに伝えてくれていることこそが有意義だ。
 もともと努力型の選手だったということもあるかもしれないが、「意識」については常に「上積み方式」(過去の意識にさらに改良を加えていく方式)と分析(采配のかげにある理論をみぬく力)が卓越している。普通の野球選手であれば、走塁中のイチローの何気ない視線や監督との何気ない会話などは記憶にもとどめていないはずだ。それができたからこその名選手、名コーチ、そしていずれは名監督候補にもなりえたのだろう。最初から「金」のような存在であれば、こうした視点や分析能力はなくても一流になれるのかもしれない。ただしほとんど多くの人間は「金」ではないので、着実に着実に上積みを積み重ねたり磨いたりして「いぶし銀」のような鈍く、しかししっかりした光で一隅を照らす。辻氏のこの本にはほかの野球関係者の書籍にはない「いぶし銀」のようなしっかりした光を感じる。

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