2012年8月25日土曜日

ざっくり日本史!(祥伝社)

著者:斎藤孝 出版社:祥伝社 発行年:2010年 本体価格:619円
 「ざっくり!世界史」が近代化やルネサンスなど非常に面白く読めたので、引き続き日本史バージョンも購入。日本史というよりも万葉仮名とか鎖国の影響など文化論的な内容。でもまたそれも面白い。
 大化の改新からの公租公田、そして三世一身の法から墾田永年私財の法に至る農村統治の苦しさみたいな解説も面白かった。「田んぼ」というのはいったん手入れを怠ったり、転作すると、再び水田として活用するのにはとてつもない手間がかかる。水田を捨てて逃亡する農民の「管理」はかなり大変なものだったろうと思う。
 その後、農地をめぐっては太閤検地から地租改正、戦後の農地改革をへて現在に至るが、現在もなお、農地については社会的に適切な均衡に到達しているとは思えない。
 著者は土地所有の上限が必要という持論を展開しているのだが、私的所有性こそが近代の産物で、さらに種々のモチベーションになっている面もあるので、むしろ不動産の証券化など「所有」の在り方をかえていくほうが将来の日本にとってはいいことなのかもしれないと思った。 
 現在議論されているTTPについても数学的に自由貿易のほうが社会的メリットが高いことは証明されている。TTP反対派の論拠は、文化論や一種のイデオロギーみたいになっているのだけれど、推進派と反対派の議論がかみあわないのは立っている土壌が違うからではないかと思う。推進派の論拠を崩すひとつの在り方としては、たとえば稲作がもたらす環境保全によるメリットや、緑化政策の推進にも役立つといった市場外の外部経済をなるべく計量的に測定して、TTPによる自由貿易のメリットは○○億円だが、それによって失われる外部不経済の貨幣的価値は××億円で、○○億円<××億円であるからTTPによる国内農業の衰退は避けなければならないといった議論展開だろう。国内農業が壊滅するとイドロギッシュにいわれても兼業農家が多数をしめる現在では、小作一揆が起こる余地もなく、今ひとつ反対派の言い分が伝わってこない(自分が都心に住む非農業所得者だからかもしれないが)。日本の歴史の特に土地をめぐる考察は、国際化や情報化が進んだ現代になっても、意外に過去の政策と共通する論点が多いように感じる。

0 件のコメント: