2012年8月17日金曜日

蒼穹の昴 第4巻(講談社)

著者:浅田次郎 出版社:講談社 発行年:2004年 本体価格:629円
 単行本で10年以上前に読み、文庫本で改めて読み直してみると、すっかりストーリーは忘れている。ただ大清帝国末期の時代を取り扱っていた小説という印象だった。歴代王朝の権力のシンボルとして位置づけられている「龍玉」は、それほど登場人物は意識もせず、また必死で探す様子も見えない。金銭的なものではないが、権力の継承に値するかどうかを判断するリトマス試験紙的な扱いなのが印象に残る。架空の登場人物と袁世凱など実際の歴史上の人物が入り乱れるが、世界が近代化していくなかで、必死に変化を拒んだ王朝が壊れる一歩手前の世界で、これはやはり90年代やゼロ年代ではなく、2010年代に改めて読み直されるべき小説といった感がする。
 かつての変法派が現在の国際化の流れに相当し、飢饉や略奪がデフレ不況、内閣支持率が「龍玉」といった置き換えが可能で、登場人物のどのキャラクターに自身をなぞるのかはそれぞれの読者の選択による。いずれにせよ(現実と同じように)ハッピーエンドの数は少ないが、それでもこの優れた小説が現在もなお重版を続けているというのは、小説の可能性もまだなお持続しているとみるべきか。

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