2012年8月12日日曜日

本当の経済の話をしよう(筑摩書房)

著者:若田部昌澄 栗原裕一郎 出版社:筑摩書房 発行年:2012年 本体価格:940円 評価:☆☆☆☆☆☆☆
 新刊だが、コストパフォーマンスが高くて非常にいい書籍。大学を除籍になった人文科学専門のライターと経済学史専門の教授の対話形式で進められる本で、経済史はもちろん現在のテーマもからめて近代経済学や社会思想史のオリエンテーションが繰り広げられる。人文科学系では最初からTPP反対の図式があることなど一種の「テリトリー」みたいなものが構築されているという指摘も興味深い。理論とか研究ってそういうテリトリーから脱け出すことも必要になるのではという問題意識も芽生えてくるし、巻末の膨大な参考書籍はさらになんらかのテーマを追求したい読者への情報提供として利用できる。新書で300ページを超えているため、分量はかなり多い部類だが、内容が面白いのですっと読みすすめてしまう。政府の所得の再分配がはたして必要なのか、など既存の近代経済学の枠組みになれきっている読者にも新しい視点が必ず呈示されることだろう。教授の説明に対して、生徒役の栗原氏の「それって質点みたいなものですね」という斬新な解釈がまた読者の理解をさらに深めてくれる。優れた聞き手と優れた話し手がいて、すぐれた対話集、さらに書籍ができるというお手本のような書籍だ。素晴らしい。

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