2012年8月23日木曜日

知的幸福の技術(幻冬舎)

著者:橘玲 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 本体価格:457円
 正体不明の作家「橘玲」氏による「自由な人生のための40の物語」。とはいえこの橘氏、自由から逃れようとしても自由は日常生活にしのびこんでくる…というおそるべき視点をもっている作家で、「自由」をめざしていなくても「自由」になる…。私なりの解釈でいえば、会社勤めを志していても会社が倒産すれば「自由」になるし、学校に真面目にかよっていても「退学処分」になったりする…というニュアンスなのだと思う。
 放浪にあけくれて家庭が崩壊した「知人」や、「憧れていた人物」の生活の荒廃や破滅のエピソードに「自由」に対する著者の警戒心がうかがえる。
 ただそれが警戒心で完了しないのも、この著者の魅力で、たとえば「選択肢の多さ」「未来への不安は希望」「目の前の課題の解決」といった個々のテーマで解決策が「暗示」されている(絶対的な解決策ではない)。絶対的な解決策ではなく、相対的な解決策というのがやはりこの著者の優れたところで、「これこれの金融商品がいいですよ」「だめですよ」というテーマが不変的かつ普遍的であるはずがない。一定のヒントさえ読者に与えれば、あとは読者の個々の状況で「自由とは」「経済的安定とは」という問題に対して、それぞれ個別に解決策を出すべき問題であろうから。
 エーリッヒ・フロムの学説をここで援用するのはけっして場違いではあるまい。中世から近代に至る過程で、人は「封建主義的なもの」「地縁的なもの」などから一斉に解放されて「自由」になった。が、どこへ向かう自由なのかは、正直判然としない。その結果、近代の人間は孤独と無力感にさいなまれる。それが1940年代においてはファシズムやあるいは民主主義だったわけだが、現代の日本では、それが「誰しもが皆加入する生命保険」「一定の年齢になれば誰しもが購入する一戸建て」「だれしもが努力する受験勉強」「だれしもが目指す自己実現」…あれ、これテーマあるいは目的が「民主主義」やら「アーリア民族の優秀さ」からミニマイズされただけ、といえそうだ。
 

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