2012年8月7日火曜日

札幌刑務所四泊五日(光文社)

著者:東直己 出版社:光文社 発行年:2004年 本体価格:495円
 書店で平積みになっているので新刊かと思いきや2004年発行、2012年7月30日8刷のロングセラー。スピード違反で反則金の督促を受けた著者は、かねてより取材のために刑務所に潜入することを目論んでおり、意図的に反則金7,000円の支払いを無視。正確には「労役所」での留置だが、取材の意図を知った検察庁も経済刑と身体刑は異なることや強制執行をちらつかせて労役場への収監を拒否しようとする…。
 中村うさぎさんがかつて住民税滞納で強制執行される様子を取材しようとカメラマンとともに待ち構えていると、強制執行が延期されたというエピソードが紹介されていた。法的にも問題がない強制執行だがマスコミにその様子が紹介されるのを税務署も検察庁も非常に嫌がる様子が伺える。で、7,000円の反則金を支払わないために4泊5日の労役所への収監は、明らかに行政コストのほうが肥大。人件費もかかるし、食事代もかかる(といって確信犯でなければ普通は入りたいなどとはそもそも思わない)。まして著者が禁酒・禁煙でしかもダイエットに役立つほか、食費もういて本も書けるとか考えているとなると、検察庁としては威信をかけての「拒否」となる。さて、それではそうなったか…というとそれがこの本の内容になる。一定程度ほかの入所者とは隔離されての収監だったようだが、健康診断が一種のデータベースになっているのではないか、という著者の推理はけっこう的を射ていると思う。むしろこの4泊5日をこういう1冊の本にしてしまう著者の力量というか世界観がすごいと思った。一般人ではメモもノートもとれないわずかの時間で、前後のエピソードを含めるとしても限界はある。「札幌刑務所」の朝の音楽が「マイ・フェア・レディ」だったというエピソードとその考察からして、やはり作家と新聞記者などのノンフィクション作家とは物語を構築する手段や世界観そのものが違うのだな、と実感。

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