2012年8月28日火曜日

秘密とウソと報道(幻冬舎)

著者:日垣隆 出版社;幻冬舎 発行年:2009年 本体価格:740円
 情報を大量にもっている人間とそうでない人間との攻防戦は面白い小説になる。推理小説などでもたまに見られるが、完全な情報をもつ犯罪者とそれをおう探偵や警察の攻防戦は面白い。さらにいえば、まったく勝負にならない攻防戦よりもある程度情報量が均衡していてそれがわづかな差であるほうが盛り上がる。
 この本では、「秘密」を知るターゲットと「秘密をかたる虚言癖のひと」、そしてそれを取材源とする「報道」の三者をおもに取り扱っている。「取材」である以上は「秘密」を知る人に肉薄しなければならないが、その過程で大誤報につながりかねない「虚言癖」のひとへの注意事項がまとめられ、それが取材源などに対する倫理や報道のあるべき視点の多様性といった話に展開。足利事件や外務省機密漏えい事件などが題材となっている。
 人的行為による犯罪や事故などでは必ずだれかが真実を知っている。ただしそのプロセスでノイズが多数入ってくるが、それを除去する作業は案外ウェブが発達したからこそ大変な時代といえる。この本はマスコミが主な「書き手」として想定されているが、個人レベルでも「思い込み」「偏見」「根拠のない事実」などにふりまわされることはあるもの。一元的なモノの思い込みや型通りの判断では、「真実」(おそらくそうであろうと思われる事実と一定の根拠ある見識)にはせまれないということだろう。
 「踊る大捜査線」もそうだし、ハリウッドのミステリーもそうなのだけれど、最近の犯罪者はとてつもないIQをもった天才という位置づけにしいてることが多い。科学的捜査と圧倒的な人的資源をかかえるFBIや警察を相手にしては、そういう設定にしておかないと、見ごたえのある攻防戦というのはなかなか設定しにくい。が、この本を読んでいるうちにもう1つの可能性もあると思った。
 真犯人はきわめて平均的人間だが、環境が「ウソ」を招きやすい環境で、探偵もしくは警察は「真実」になかなかせまることができないという設定。いやいや、これはストーリーになるぞ、と思ったら、よく考えてみたら、それは芥川龍之介の「藪の中」という名作がすでに…。

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