2012年8月19日日曜日

中原の虹 第1巻(講談社)

著者:浅田次郎 出版社:講談社 発行年:2010年(文庫本) 本体価格:629円(文庫本)
 神話学者ジョセフ・キャンベルの「千の顔をもつ英雄」と照らし合わせて読むと非常に興味深い。
 著者はおそらく神話などはあまり参考にせずに執筆しているはずだが、百歳を超える占い師は前触れの「使者」に相当し、冒険への召命を主人公に託す。そして一定の過失(あるいは偶然)が、思いもよらぬ世界へ引き寄せられていく…。物語の場所は「蒼穹の昴」「珍妃の井戸」と同じく大清帝国末期の中国だが、やや北上して満州は張作霖が物語の主役となる。この「召命」はキャンベルによれば、再生と死を意味するが、いささかの不安を抱えつつも、主人公や登場人物は、銃やあるいは言論を片手に混乱の世界へ躍り出る。キャンベルが例示している物語の磁場の道具立ては「中国竜」(召命にふさわしい環境条件)なのだが、「宝物」はこの本では「龍玉」。
 すでに「蒼穹の昴」で、悲劇的な結末がある程度予兆されているのだけれど、日本の外交政策や軍事がその後張作霖に対しておこなう活動は周知の事実。すでに神話や伝承などで語り尽くされてきた物語を大清帝国の滅亡とからめて著者が再びとりあげる魅力は…21世紀の「今」にもおそらく大清帝国の滅亡や中華民国の再生がからみあっているせいか。

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