2011年12月26日月曜日

秘密(講談社)

著者:重信メイ 出版社:講談社 発行年:2002年 本体価格:1500円
 著者の母親は日本赤軍の重信房子。そして著者は生まれてから28年間アラブ諸国を転々とし、無国籍の子供として育つ。日本赤軍という言葉からイメージできるのは、「国際共産主義」というイデオロギーなのだが、この本を読むと重信房子は、アラブ社会のなかできわめて日本的な生き方を志向していたことに気づく(たとえば90ページで両親は著者を日本人としてきちんとやらなければならない」と育てたことが紹介されている)。リッダ闘争(テルアビブ闘争)で、銃を乱射し100数十人ともいわれる死傷者を出した「テロリスト」であるにもかかわらず、自らの娘には、「(知人の集めていたコインを失敬した娘に)それは泥棒の恥じ入りでしょう」と叱り、母娘で謝罪にいったことが紹介されている(66ページ)。そしてアラブで育ったにもかかわらず日本人として日本国籍を取得し、早稲田の外国語学校で日本語を学習しはじめる著者は、アラブ人と日本人のハーフではあるが、まさしく日本人としてのアイデンティティを獲得していく。政治的スタンスとしては、ニュートラルであろうとしている意欲はかえるが、明らかにアラブより、反イスラエルといったところか。下町を歩く姿を表紙にしたのは、そうした日本人としてのアイデンティティを獲得していく著者を見事に描ききったものといえるだろう。
 著者がジャーナリストをなのることについて批判的な向きもあるようだが、私個人は、母親の「罪」は「罪」として認め、「共存」を模索していこうとする著者の姿勢には賛同できる。日本には、国家主義にずぶずぶ寄っているジャーナリストもいれば、共産主義者すれすれのジャーナリストもいる。やや反イスラエル的で、「テロリスト」の娘として育ったジャーナリストが活躍しても、その多様性を誇るべきであって、けっして排斥すべきものではない。むしろ、母親とのつながりを強く意識し、母親に面会しにいく姿こそ、実はきわめて日本的すぎるシーンではないかと思う。ブントで共産主義活動、アラブでパレスチナ解放を叫んだ母親は、日本で逮捕され、娘はアラブから日本に「帰国」して日本国籍を取得した。これって、すごいことだと思う。

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