2011年12月25日日曜日

さくら(小学館)

著者:西加奈子 出版社:小学館 発行年:2007年 本体価格:600円
 1977年生まれの天才作家、西加奈子さんの「さくら」ベストセラーではないが、20万冊を超えるロングセラーとなり、今もなお読者を地道に増加させているのがこの作品。物語は東京で一人暮らしをしている「僕」が2年前に突如家をでた父親から手紙をもらう場面から始まる。故郷にかえった「僕」を取り巻く家族は、もちろん仲はいいのだけれど、どこか空気があいたような雰囲気。そしてそれは、とある事件がもとで20歳でこの世を去った兄が生まれてきたときから始まった家族の「死滅」と「再生」の物語の始まり…。「さくら」は尻尾に桜の花びらをつけていた犬の名前。きわめて退屈な日常の生活のなかに、次第にしのびよる「死」「別れ」「事故」「破滅」の影。そして、ある瞬間から死んだも同然だった家族のそれぞれが再び生きる力を取り戻す。やや「仕掛け」が長いのは、ラストで一気に盛り上げるための作者の伏線で、時間軸を過去・未来・現在と行き来する移動の手法や、キャラクターがそれぞれ違う兄妹のキャラクター造りも見事。著者はこの作品を20代で執筆したことになるが、20代でなければ書き得なかった子供時代と青春時代のモロい雰囲気が満ち溢れている。人生と神様を野球ボールにたとえて、それでも踏みとどまって人生頑張ろう的な作者のメッセージがとても素敵である。新しい一年をむかえる「僕」とその家族の物語、この年末に読めてとても素敵な気分になれた。

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