2011年12月20日火曜日

流れる星は生きている(中央公論新社)

著者:藤原てい 出版社:中央公論新社 発行年:1976年 本体価格:686円 評価:☆☆☆☆☆☆☆
 かつての日本での大ベストセラーで、今では書店の片隅にひっそりと並べられているが、それでも読者がいないわけではないようだ。2011年6月15日付けで改訂15刷。一部創作も混じっているというが、現在エッセイストとしても活躍している藤原正彦氏の母にして、作家新田次郎の奥様が著者。日本の敗戦とともに満州から日本へ帰る道程を描いたノンフィクションベースの物語で、今の高校生や中学生からすると想像もできない世界かもしれない。だがしかし、中国東北部に日本人一家が多数住み、そして敗戦前から自らの力で日本へ戻らざるを得ないという苦痛の歴史があった。実際の体験をベースにしているからだろうか。映画などで描かれているようなソビエト連邦の一方的な軍事行使という場面も、中国人や朝鮮・韓国人などによる被害なども直接的には描写されていない。むしろ藤原一家をめぐっておそってきたのは同じ日本人家族同士のいがみあいだった…。携帯電話もウェブもない時代に必死で情報を集め、そして人生の意思決定をくだすそれぞれの家族がいる。数百円のお金をだましとる人もいれば、正気を失う人もいる。大岡昇平の「野火」「レイテ戦記」も衝撃的な内容とイメージだったが、同じ時期の満州一帯もフィリピン諸島をうわまわる悲劇。一刀両断のイデオロギーや国家論などが浅薄にも思える内容だ。

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