2011年12月14日水曜日

サンダカン八番娼館(文藝春秋)

著者:山崎朋子 出版社:文藝春秋 発行年:2008年(文庫新装版) 本体価格:714円
 年間200冊のノルマを自分に課しているが、どうやら9年連続で目標は達成できそうだ。2011年の200冊目は山崎朋子のこの本。初版は筑摩書房から1972年に単行本で発刊され、現在もなお読者が増加中。天草で偶然であった老婆に関心をもち、その「自宅」に赴く著者。昔話に聞く鬼婆の家としか思えない廃屋に住まう老女こそ、「からゆきさん」だった…。辛く思い出したくない記憶を語ってもらおうと著者はその老婆の家に住み込み、ボルネオ島にわたった「「おサキさん」の話を記録にとり、そして戸籍そのほかでその話の内容を検証していく。苦労して取得したと思われる写真の数々が表紙や章とびらに掲載されており、本文とあわせて読むと、「真実」の重さがのしかかってくる…。ノンフィクションだからといってすべてが「事実」というわけにもいかないだろうが、取材される側と取材する側のコミュニケーションと、日本が思い出したくなかった過去の歴史がつぶさに聞き取られ、取材する著者の心のうちでさえ、「公正さ」から偏り、ついには他人の家から写真を無断で持ち出す心境までもがつづられていく。文庫本で約440ページ。今はもう史上最高値の円高が更新されていこうとする時代には考えられないほど外貨蓄積が欠乏していた日本。その日本を底辺でささえ、しかも実の息子からも邪険にされつつも、前向きに生きていこうとする「おサキさん」の生き方に心うたれる。

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