2012年3月2日金曜日

私、社長ではなくなりました(プレジデント社)

著者:安田佳生 出版社:プレジデント社 発行年:2012年 本体価格:1400円
 ページ数や本の造りだけみると、やや割高な本だ。ただし実際に経営していた会社が民事再生法を適用され、さらにご本人は自己破産され、しかも経営していた会社は社内にバーラウンジなどがあったわりと有名なワイキューブだった…となると話は別だ。著者には「千円札は拾うな」というベストセラーもある。いわば経営破綻を招いた過去の要因を元経営者が自ら語るというものだが、外側から見ていたよりもかなり無茶な投資拡大を続けていった様子が垣間見えて痛々しい。著者と私は同世代になるが、同じ世代に生きていてどうしてこれほど人生の過ごし方が違ってきたのかを考える上でも興味深いし、無担保で40億を肥える借入ができたこと自体も驚きだ。人材採用サービスやコンサルティング、会社のブランディング事業などを手がけていた会社だが、有形のモノとは違う無形のサービスを売るというのは厳しいビジネスだと思う。モノの場合には一定の品質とブランド、しかも定型的な便益がある程度見込めるが、サービスについては生活必需品というわけでもないし、提供する側の都合や提供される顧客の都合でもその品質は変化する。いわば不定形な商品なので、時代の流れが「不況」になれば、そのあおりを受けるのも早い。借入金の利子率よりも高い収益率が維持できていれば、著者のかたる借入による拡大戦略も有効だったとは思う。ただ、サービスは場合によっては支払利息よりもかなり低い水準の収益率しかあげられないときもある。そのときには、ある程度の貯蓄が必要になるということを忘れがちだったのではあるまいか。中学生時代からの半生が語られているが、経営社独自の理念と時代の経済環境がかみあわなかった例になるのかもしれない。ただ社員を大事にしようとしていたことや、大多数の経営理念とは異なるものの独自の美学を追求しようとした点は評価できるのではあるまいか。必ずしもこの内容に100%賛同はできないが、かといって100%否定もできない。成功哲学がわりと多く語られる現代にあっては、むしろ「失敗」の要因を探り出そうというときには貴重な資料となりうる。ベンチャーという言葉が一種「美学」のように語られることもあるが、この本を読むと会社の経営はやはり綺麗事ではすまないし、この不安定な時代では商品を一定の利益率で販売していても、いつ会社そのものがなくなるのかがわからないという自らを振り返る種にもなることがわかる。

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