2012年3月12日月曜日

IFRSの会計(光文社)

著者:深見浩一郎 出版社:光文社 発行年:2012年 本体価格:820円
 元銀行員で現役の公認会計士による国際財務報告基準/国際会計基準の解説書。逐条解説の本というよりも、2011年内に発生した日米欧の経済事象を軸にして、60年来の国際会計基準の歴史も追う。現在進行形のIFRSであるため、実際には「最新」とか「網羅」することは不可能。よく書店に出回っている「最新」「逐条」というのはIFRSに関するかぎりは誇大宣伝にあたる。この本ではそうした「誇大宣伝」に陥ることなく、「2011年末」時点で将来を予測するというアプローチと「将来あるべき」モデルを示す。資産負債アプローチについては文言は出てくるが、その説明はまったくない。会計理論を追う本ではないのでそれは妥当な取捨選択だろう。これまでIASBは各国の会計基準設定主体は政府組織や企業の肝いりではなく、純粋な民間団体であることを求めていると考えていたが、この本を読むとフランスの会計基準設定団体は経済財務省の一部となっており、日本の企業会計審議会よりも一歩政府に近く踏み込んだ組織であることがわかった(79ページ)。また、1999年頃のレジェンド問題についても、日本の会計基準がローカル化していたから…という程度の理解にとどまっていたが、実際には1997年のアジア通貨危機で監査法人のビッグファイブにG7が厳しい要求を突きつけた結果であることも初めて知る(73ページ)。FASBの沿革なども詳細に著述されており、アメリカの財務報告基準については会計学の書籍ではいきなり「FASB」という言葉がでてくるだけに、専門書を読むときにもレファランスとしてこの本は役に立つだろう。
 疑問点もないわけではない。122ページから後入先出法はIFRSでは排除されているが、日本基準では「○」という著述がある。日本でもすでに棚卸資産会計基準により後入先出法は排除されているため、この点ではIFRSと日本基準とで齟齬があるわけではない。ただまあ、そうした個別論点についても理論や計算は専門書で学習するとして、実際に会計基準設定諸団体の沿革や日米欧の政策などを学ぶうえでは値段といい分量といい、ちょうど手頃な本ではないかと思う。

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