2012年2月1日水曜日

働くことは生きること(講談社)

著者:小関智弘 出版社:講談社 発行年:2002年 本体価格:700円
 いまどきこのタイトルでは読者が書店で手に取ることも少なくなるのかもしれない。ただ中身は絶品で大田区の中小企業で旋盤工として働きながら、「労働」の意味を根源から考え尽くした力作。1933年生まれということで、若かりしころは労働運動にもちょっと染まったようだが、その後、イデオロギーから離れて「労働」「勤務」「人間」を「鉄を削る」という作業のなかからじっくり考えていく。内容面はひたすら「貧しい」のだが、いわゆる抽象的な議論ではなくて、鉄を削ったり、子供の頃の父親と叔父の仕事ぶりなどから、「働く」ということの「味わい」が醸し出されていく。ただすべての「労働者」を肯定しているのではなくて、よく読んでみるとただ単に機械装置のオペレーションになったり「自動化した労働」をしている人間には存外厳しい内容だ。ロボットのように働くのではなく試行錯誤を繰り返して鉄と対話していくような地道な努力を積み重ねて差別化していくプロセスこそがこの本の醍醐味。さまざまな部品や製品を作って場数をふみ、その都度いろいろな工夫をする。その個別の努力をつむぎあわせて、設計書からイメージを紡ぎ出せるようにする…というのは実は自分自身の「仕事」にも大きく関係してくる。鉄を切削して圧延していく工程から「労働」をみる。これって実は最良のビジネス書籍ではあるまいか。

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