2012年2月19日日曜日

科挙(中央公論新社)

著者:宮崎市定 出版社:中央公論新社 発行年:1079年 本体価格:680円
 池袋のジュンク堂を探しても見つからず、発見したのは飯田橋のブックオフの100円コーナーという偶然。即購入して読み終わったが、やはり古典中の古典。むちゃくちゃ面白い。隋の時代に始まった科挙だが、当時の貴族制度を脱するために始まり、それは学校教育の不備を補い、民間部門での自主的な学問育成を図る制度となった。もちろん弊害は大きかったが、貴族制度を一時的にも弱めるのに役立ったのがこの科挙。やはり科挙を廃止に追い込んだのは試験勉強では培うことができないヨーロッパの自然科学の技術・知識の輸入だった。1904年に科挙は廃止されるが、1400年の歴史を誇った科挙は時代をへるにつれ弊害を撒き散らしながらも中国の一定の文化水準を保った。県試、府試とそれぞれの科挙の試験実施の様子が明らかにされるほか試験勉強のやり方、替え玉受験の防止、カンニングの防止など今の試験制度にもその源が推察される種々の工夫が興味深い。日本の国家一種試験も弊害は取りざたされてはいるが、一部の特権階級のみの受験ではなく広く国民一般から誰もが受験できるかたちで実施されているので、必ずしも悪い面ばかりではないだろう。ただ現代の試験制度が意味を持たなくなるようになるためには、国語・数学・英語の3科目だけでも、一定程度の水準が学校教育で担保されているというのが条件となる(数学が苦手で近代経済学や高度な工学技術の習得は難しい。また英語も一定の水準がなければ海外論文を読みこなすこともできない)。ある意味では日本の国家公務員試験、大学試験、高校試験も、その意味を失うまでは必然性がある…ということで、そうそう簡単には廃止はされないだろう…という見方も成立しうる。

0 件のコメント: