2012年2月25日土曜日

うほほいシネマクラブ(文藝春秋)

著者:内田樹 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:1000円
 映画が好きで。映画を観るのも好きだし、映画について語るのも好きだ。一番好きなのは「定型的な映画の見方」に縛られない映画の見方を教えてもらうときで、それはこの本を読んだときにも感じたこと。すでに一回以上観た映画なのに、なぜかその新しい見方で映画をみると新しい映画に接したような錯覚に陥る。この「錯覚」に陥る瞬間がとてつもない快楽で、たとえばこの本の31ページから展開されている「スター・ウォーズ エピソード3」と映画「三四郎」との共通点とか、映画「コンスタンティン」と村上春樹「アフターダーク」との「物語の類似性」さらには、324ページで「アメリカン・ビューティ」と「市民ケーン」との比較などなどが展開され、映画ズキならまず見ているだろう名作のほとんどすべてが著者独特の解釈で再構成される。どんな人の映画評論でも新鮮な見方をとらえるのに役に立たないものはないが、この新書は既存の「映画」をあらためて再認識するのに濃縮された情報がぎっちり。しかも新作ばかりではなくフリッツ・ラングの「死刑執行人もまた死す」とか「東京暮色」なんて作品もでてくるから嬉しい。いや、正確にはこれから映画を見る人にも「DVD借りてみようかな」「映画館に行ってみようかな」とおもわせてくれる「プロパガンダ」的内容も含むので、映画興行界にとっても嬉しい新書だろう。映画論ではあるが、最終的には「言葉」への信頼がかいまみえるのは著者がやはり「文章」の人だからか。何かを作る、何かを再編集する、というときにもなんらかの参考書になりうる新書だろう。

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