2012年2月17日金曜日

十字軍物語第2巻(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:2500円
 一番面白いエンターテイメントは何か…というとおそらく「歴史」。一番ためになるビジネスジャンルは何か…というとこれもおそらく「歴史」。だいたい21世紀の今にいたるまで、凡人が一生に経験するような幸福も不幸もほとんど全部歴史上の先人たちが経験してくれている。歴史上だれも経験していないような「不幸」というのに遭遇するのは、それ自体が「未来」中の「未来」なのであって。
 この第2巻では、イスラム世界の英雄ヌラディン、そしてサラディンが姿をあらわす。エルサレムをイスラムから奪還したあとの王はボードワン2世。そしてそれを支えるテンプル騎士団と聖ヨハネ騎士団も誕生。必ずしもカリスマ的英雄ではなかったボードワン2世だが、人間的魅力でエルサレムを防衛。イスラムのゼンギの要求にたいしてエルサレム王のフルクは城塞を譲渡。それがイスラムの反撃の緒となる。
 まずエデッサが陥落し、それが第二次十字軍の結成につながる。ただし神聖ローマ帝国とフランスが参加していたにもかかわらず奪還は失敗。そして最強のイスラムの英雄サラディンと対抗したのはライ病をわずらっていたボードワン4世。このあたりはリドリー・スコット監督の「キングダム」が映画の舞台にしている。オーランド・ブルームが演じた役のモデルとなったバリアーノ・イベリンについてもこの本ではかなり詳しく著述されており、ドラマチックにエルサレムはサラディンの前に陥落する。相変わらず地図と挿絵が豊富で想像力がそれほどない私にとっても十字軍の世界が目の前に広がるかの思い。そして人を率いる「王」たるものの「資質」について、これほど的確な「教え」を学び取れる本はそれほど今の書店にはないのだ。「力量・幸運・資質」を著者はあげているが、ボードワン4世は力量と資質はあったのだろう。ただ「運」がなかったのだと思う。227ページ前後ボードワン4世が16歳のとき。2万6000人の兵隊を率いたサラディンがエジプトから北上。そのうちの半分で港都市アスカロンの周辺を略奪するが、ボードワン4世は580騎の騎兵を率いて13000人のイスラム軍に切り込み、サラディンを敗退させる。残り少ない命をただエルサレムという「都市」の防衛に尽くしたボードワン4世の生き様は、この第2巻の白眉ともいうべきくだり。

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