2012年2月24日金曜日

十字軍物語 第3巻(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:3400円
500ページ近い第三巻だが寝る間も惜しいくらい面白い。第一次十字軍はエルサレム奪還(とはいえイスラム側にはこの当時宗教戦争という意識はなかった)。第二次十字軍は、イスラムの英雄サラディンとエルサレム王国のボードワン4世との戦い。そして第三次十字軍から第八次十字軍までは、「なんだかなあ」の世界。リチャード1世が登場し、それに付随するかのように「ロビンフッド」の神話も生まれる。フランスのフィリップ2世、ドイツのフリードリッヒ1 世と役者は揃っているのだが、その成果はぱっとしない。第四次十字軍にいたっては、同じキリスト教国家のビザンティン王国を攻め落としてしまうのだが、この本を読むとその奇妙な出来事がなぜゆえに発生したのかがよくわかる。遊牧民族「元」の侵攻や、テンプル騎士団の虐殺など世界の歴史を彩る事件は多数著述されているのだが、第三次十字軍以降は「宗教戦争」というよりも実質的には「経済戦争」となっていた。崇高な「理念」の戦争が次第に属人的で凡庸な争いに転化していく様子が興味深い。それでもなお、「義」に殉じる騎士もいたのだから、人間には最後の最後に「どん底」に落ちる寸前にストッパー機能がそなわっているらしい。

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