2012年2月5日日曜日

2000年間で最大の発明は何か(草思社)

著者:ジョン・ブロックマン 出版社:草思社 発行年:2000年 本体価格:1500円
 各方面のアメリカの知識人がウェブをメディアにして2000年間の最大の発明について議論する。万能チューリング機械、印刷技術、インドアラビア数字、「見えない技術体系」などさまざまな解答が並び、最後を著者がしめくくる。ありきたりでない解答と理由がコンパクトに並置されており、書籍のどこのページをあけても読書の世界に引き込まれる。これぞまさしく印刷技術の成果…ではあるのだが、ここ2000年の「発明」にあたるかどうか、でも実は深い議論がなされる(ミノス文明や中国の印刷などについても最終的には議論が深められるので)。文明はゆるやかに継続しているひとつの体系ではあるが、これを微分していくと節目節目に「発明」が関与していることが判明してくるという次第。たとえばフランス革命にしても印刷技術の発明がなければ新聞は発行されていなかったろうし、インドアラビア数字がなければ当時のフランス王室の財政赤字についても民衆は意思決定のしようがなかった。犂がなければそもそも農業生産そのものがフランス民衆の生活を維持できなかったし、教育の普及がなければ民主主義についての判断も当時はできなかっただろう。鏡の発明は民衆の「自我」を覚醒させたことだろうし、ドイツ騎兵がのっていた馬はウクライナで「発明」(?)され、鐙や首あては遊牧民族が「開発」したもの。複式簿記は商業ブルジョワの商売を発展させて資本主義の土台を築いたし、科学的方法が宗教からの解放を可能にした。というわけでこの1冊のなかに並べられている文明の道具は、すべて歴史的事件の背後にひそむ重要アイテム。発明はまさしく発明そのものよりも発明をどれだけ利用できるか、にかかっていたわけである。

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