2012年2月29日水曜日

独学のすすめ(筑摩書房)

著者:加藤秀俊 出版社:筑摩書房 発行年:2009年 本体価格:840円
 もともとは1975年4月に文藝春秋から発行されていた本を多少用語などを修正して文庫化し、2009年に新刊されたもの。いまから37年前の内容ということになるが、題材はきわめて新しい。「科挙」についても言及されているが、中国で「科挙」が実施されていたころ、学校制度は逆に中国では重視されていなかった。今でいう民活で、予備校や過去問題集の類はでまわっていたが、予備校的な性格の学校はあっても義務教育に相当するシステムは中国ではなかったわけである。著者は大宝律令に埋め込まれた「科挙」の精神が明治維新で復活した名残を国家一種や大学受験にみる。一律に試験制度のための勉強には否定的で、報酬をもとめる勉強意欲よりも自発的な動機のほうを重視しているので、どちらかといえばもうすぐ終了する現行学習指導要領の「ゆとり教育」に発想は近い。もちろん内在的な動機を重視するのが一番ベストな方向だが、あえて強制的にしないと勉強しない人もいるのでそのあたりのバランスが難しいところである。対立軸をおくと学校教育か在野の独学か、内在的な動機かガイ発的な動機かということになるだろうか。自発的に学校にいかず勉強をするのがもっとも望ましい形態だが、たいていの人は自発的同期では長期間は耐えられない。とはいえ学校に毎日通い、好きでもない勉強に強制的に従事させられるというのも苦痛の連続だろう。普通の人は学校に通いながらある程度好きな勉強をする、予備校や専門学校に通いながらある程度強制的に勉強しつつ自分でも多少は好きな勉強するといった中間形態になるだろうか。中国の科挙から大宝律令、明治維新という流れもあるが、緒方洪庵の適塾のように在野で学問を続けた塾から福沢諭吉が生まれてきたような事例もある。こうした内在的動機を重視した本は2010年以降はあまり流行らないものかもしれないが、今後再び注目を浴びることもあるだろう。
 それにしてもいったん廃刊になった書籍を文庫本で復活させる筑摩書房の「目利き」ぶりにも驚嘆。

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