2012年1月31日火曜日

先着順採用、会議自由参加で「世界一の小企業」をつくった(講談社)

著者:松浦元男 出版社:講談社 発行年:2009年 本体価格:762円 評価:☆☆☆☆☆☆☆
 世界一のプラスチック精密部品メーカーをめざし、百万分の1gの歯車を完成させた樹研工業。この会社、ルールがない。というかタイムカードがまずない。出張はクレジットカードのみもたせて報告書の類の作成もない。高い生産性を実現するためとはいえ、ここまで内部統制的なことをしない会社はめずらしい。それでいて採用は先着順。とんでもないメンバーが集まりそうだが、実際にこの本を読んでいると就職してきたのは、元ヤンキーやらなんやら。しかも定年制もない。その一方で一日7時間労働をめざすというのだから、特に労働組合の影響もなさそうなところをみると、これはやはり著者である社長の一種の人生哲学や経営理念がそのまま株式会社の運営に反映されているのだろう。そして注目すべきはその社員たちのモチベーションとスキルの高さ。チャンスとモチベーションを社員に与えた結果、高卒で数学嫌いの元ヤンキー女性が微分積分をマスターしたり、工業高校卒業のエンジニアが世界一の製品を作り出したり。その一方で英語や中国語をマスターする社員が続出。この理解不能な社風と生産性の高い社員の集まりは、著者がジャズをやっていたのと関係があるのではないかと思う。

 オーソドックスな経営学はいわばクラシック。音楽理論をきっちりふまえて五線譜に音符が並び、繊細な解釈を音にのせて運ぶ。ただし非常にスクエアな場での演奏が前提とされているので悪天候の野外などでは鑑賞には適さない。一方ジャズは野外であれなんであれ一種即興性をきそう天才肌の音楽。飛び入り参加もあるかもしれない(もちろんジャズもクラシックも基礎は大事だが)。通常の企業はクラシックベースの経営だが、社長が元ジャズマンであるこの会社は、営業スキルや語学、技術力などをそれぞれの社員が競いあう風土で、そこに微妙なハーモニーが流れるのだろう。予算をたてない開発計画や参加自由の会議などはジャズ的風土にふさわしい。で、自分は、というと正直自由な風土に羨ましさは感じるものの、その自由な風土でエネルギー全開でかっとぶ自信がない。自由というのは外面的規律ではなく自分自身との戦いになる。ある意味では校則だらけの学校のほうが自由きわまりない野外よりも「楽」って面はあるのだ。タイトルだけみると「あ~、自由で羨ましい会社」っていうことになるが、逆に考えるとこういう風土でも仕事ができなかった場合の自分の自分に対する自己嫌悪ってけっこう大変そう。とにもかくにもカルチャーショックを覚えるすさまじい名作文庫。


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