2012年1月4日水曜日

兎の眼(角川書店)

著者:灰谷健次郎 出版社:角川書店 発行年:1974年 本体価格:571円
 もともとは理論社から単行本として出版され、その後新潮社から文庫本として出版されていた。その後角川文庫に収録されたのは、とある事件とその報道をめぐって著者と新潮社の経営陣のある方とが対立し、版権引き上げにいたったためである。児童文学の大家とされていたが、この「兎の眼」は、児童文学というよりも「文学」として際立つものがある。一応、教育問題らしきテーマや労働問題らしきテーマも散見されるのであるが、主人公の22歳の「先生」は家庭内に問題を抱えているし、ラストは「希望」に一応満ち溢れてはいるけれど、確定した「未来像」というわけでもない。問題は山積みではあるのだけれど、それを一直線に切り開いてみせる手法が見事。一応「悪役」めいた存在もあるものの「絶対的な悪」という描写でもなく、21世紀の社会人が読んでもそのたびごとに鮮烈な関西の「街」のイメージを思い浮かべることができる。

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