2012年1月17日火曜日

決断力(角川書店)

著者:羽生善治 出版社:角川書店 発行年:2005年 本体価格:686円
 ラプラスの魔という言葉がある。ビリヤードの玉突きのように、一番最初の球をついたら、あとは予測可能な範囲で球が動き、最後は予定どおりに目標の球が落ちるというもの。この世界もラプラスの魔にかかると、すべては神によって計画された予定調和的な世界ということになってしまうが、羽生名人はそうしたラプラスの魔ではなく、将棋の駒の動きに決断力を見出す。「定跡」についてもなん百年と続く将棋の歴史の中で生み出されてきた道筋に自分なりのアイデアを付加して、さらに実践で練り上げていくことを要求し、「周りからの信用の後押し」を重視する。言葉にすると抽象的にも思えるが、自分自身がこれまでの「試合」に照らして考えてみると、定跡をふまえつつ、自分の条件(体力がないなど)を加味してプランニングしていったほうが、確かに身のある成果がえられることが多かった。だいたい「負け」になるのは根性論がほとんどである。決断力にさいして選択肢を複数(なるべく多く用意して)、そのなかから定跡と、さらにそれを加味した条件で選択していき、周囲からの後押しをえる。一種の感性の涵養に名人が重点をおくのも最終決断のぎりぎりのところで、勝負師の「感性」(映画や絵画や音楽などで無形に培われた一種の暗黙知)が働くということのようだ。簡潔明瞭な文章してしかも内容は深い。

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