2012年1月1日日曜日

絵はがきにされた少年(集英社)

著者:藤原章生 出版社:集英社 発行年:2005年 本体価格:1600円
 毎日新聞の記者によるアフリカの等身大のルポタージュ。肩に力が入りすぎたり、あるいは逆にイデオロギッシュに偏りすぎるアフリカルポは数あれど、その土地に実際に密着して「等身大」の取材をして、さらにそれをすんなりやわらかくまとめたルポはこれが初めてではないか。南アフリカ共和国、アンゴラ、ルワンダといった国を中心に、その土地で生活をすることはどういうことなのか。またアフリカーナとよばれる白人先住民の意識はオランダやポルトガルではなくアフリカ人になっているという意識を浮き彫りにしてくれる。表題の「絵はがきになった少年」とは、レソトの老人が少年のころクリケットをしている様子が写真にとられ、本人が気がつかないうちに絵はがきにされていたというエピソード。ジャーナリスティックな盛り上がりは何もないが、その「何もなさ」が逆にアフリカに対する日本人の「問題」「視点の画一化」を際立たせる。ステレオタイプのアフリカ問題ではなく、地に足のついたアフリカ問題を考えるのは、この日本からでは難しい。ただし不自然にテーマ性がうちだされた記事よりも、淡々と著述されるこの本のようなルポのほうが、おそらく現実味のある問題意識を持つことができるだろう。一応アパルトヘイトやそれにまつわる銃撃事件、さらには差別問題なども扱われている。扱われているが、生活を一緒にしていくうえで何が不都合なのだろう…という著者のボトムアップの問題提起が好ましい。

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