2012年1月31日火曜日

弱者の兵法(アスペクト)

著者:野村克也 出版社:アスペクト 発行年:2011年 本体価格:571円
 技術や直感も大事なことは大事。ただし天賦の才能に恵まれていない人間はどうするべきか。野村克也はそれを「考える力」「無形の力」に求める。近代合理性の「懐疑」ということからすれば、おそらく野村克也の野球観は「近代野球」そしてそこに「無形の力」と称する「感性」の世界が加わる。観察して判断して、結果を記憶していくというプロセスは、理科の実験そのものだが、絵画など一流の芸術作品にせっして「感性」をみがくという作業はデカルトにはおそらくないだろう。そしてそれが野球の勝率という目に見えるかたちで具現化していくことも。
 ある意味厳しい倫理観と自己管理能力を選手に課した監督ともいえるが、最初から一流の選手を集めるのではなく、特殊な技能をもつ選手や必ずしも恵まれた野球人生をおくったわけではない選手を、適材適所で活用してきた実績が、ビジネスの場でも応用できると考えられているのではなかろうか。その意味で、何でも出来る選手よりも特殊な長所をもつ選手のほうが使いやすいという言葉は重い。技術力はもちろん磨かなければならないが、特殊技能を磨いてほかの選手と差別化することこそが、生き延びる最大の知恵とも受け取れるし、実際、なんでもできる人間よりも、特殊な方面にほんのわずか差別化していることこそが、自然淘汰のなかで生き残れる条件だろう。努力するのは普通。さらに努力の先に「差別化をいかにしていくか」という戦略が必要だ、ということをこの本から学んだ気がする。

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