2012年1月5日木曜日

カリブ海の楽園(潮出版社)

著者:高橋幸春 出版社:潮出版社 発行年:1987年 本体価格:1200円
 高校時代には同じ島であるけれどハイチ共和国はフランスから独立して、ドミニカ共和国はスペインから独立した、っていうのを無理やり覚えていた記憶がある。それはそれなりに理由があり、この本を読むといかにこの「島」が土地に農業生産性がなく、漁業も海底が深いため地引網などが使えないことから難しい土地柄であったことかがわかる。そして戦後まもない日本では海外からの復員組が一気に帰国し、食糧不足に陥っていたため、海外移民が危急のテーマだったというのが、この本に描かれていた悲劇を生む。行政手続法などで法整備がなされている現在では、国と民間の関係も「おいこら」ではすまない面が多々あるが、当時はまだ大日本帝国の時代の雰囲気をひきずっていたころ。形式的な農業調査で移民を送り出したあとのフォローアップがほとんどなされないまま30年間が過ぎる。巻末資料に「ドミニカ国ダハボン地区移住者募集要綱」が掲載されているが、当時の日本でこれが資料として提示されたら、ドミニカへの移民を決意した農民が多々いても不思議ではない。埋もれていた名作ルポだが、講談社あたりで文庫化して、もう少し多くの人に読んでもらえる方策はないものか。同時期にブラジルに移民した人たちの動機や時代性などを窺い知る資料にもなりうる。

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