2012年1月1日日曜日

老人と海(新潮社)

著者:ヘミングウェイ 出版社:新潮社 発行年:1976年 本体価格:400円
 硬くなるまでゆでた「ゆで卵」のように、登場人物の心情やら感情やらは描写されずただただひたすらに行動のみが描写されている小説。それがハードボイルドだが、この「老人と海」もやたらに老人の心中が描写されるよりも、端的に朝起きてから4日後に眠るまでの行動がハードボイルドに描かれるからこそ名作たりえたのだろう。学生時代に「文学入門」(岩波新書)の巻末に掲載されている世界名作50作品をひたすら読み込もうとしている時期があった。当時はヘミングウェイも一応読んでおこうか…という程度だったが、あれから月日が過ぎてもう一度手にとってみると、老人が一人海にでてカジキマグロと格闘することにエネルギーを費やす姿にあらためて感銘を受ける。ま、エネルギーを燃焼させてその姿を次世代に承継してもらうという一連の「出来事」そのものが、一つのドラマになりうる…というのは昔の自分では想像もできなかった。が、たとえば現代日本で考えれば意図せずリストラされて不遇にあるビジネスパーソンがなにかの拍子にムダ骨となってもビッグプロジェクトに取り組む…というのと構図的には似ていると思う。その取り組む姿がたとえばアナクロであってもきっと世界はその姿そのものを取り込んでいくであろう…てな気がする。空間的世界を重視するアメリカ文学では当時あったのかもしれないが、その小説は時空をこえて日本で読み継がれた場合には、時間軸の中にさらに取り込まれていくということもある。こうしてみると文学でいう名作とは、時空間をこえて読み直され感情軸の中の歴史に何度も何度も刻みなおされていく作品なのだな、と感じる。

0 件のコメント: